社内にPMがいない会社のシステム開発外注ガイド|要件定義から開発会社選びまで

社内にPMがいない状態で、初めてシステム開発を外注しようとしている方に向けた記事です。結論から言うと、要件定義を誰と進めるかを先に決め、その工程から一緒に入れる開発会社を選ぶと、手戻りと追加費用の多くを避けられます。この記事では、外注の前に決めること、開発会社の選び方、契約の考え方、よくある失敗を順に説明します。
PMがいないまま外注すると、何が起きるのか
多くの場合、「こういうものが欲しい」という要求のまま発注され、要件が固まらないまま開発が進みます。その結果、作り始めてから「思っていたものと違う」が見つかり、手戻りと追加費用が生まれます。
家づくりにたとえると、「リビングは広く」「書斎が欲しい」が要求で、「間取りはこう、構造材はこれ」が要件です。要求を要件に落とす人がいないまま工事を始めれば、途中で壁を壊すことになります。システムも同じで、要求と要件の溝を埋める役割がPMです。
この溝は、発注側の努力だけでは埋まりにくいものです。JUASの調査でも、予定どおりの工期・予算で終わったプロジェクトの割合と、品質に満足したプロジェクトの割合が、この10年で下がる傾向にあると報告されています(JUAS ソフトウェア・メトリクス調査2026)。
詳しくは「ITプロジェクトの失敗理由の9割は、プランニングの失敗」で説明しています。
外注の前に、社内で決めておくことは何か
決めておくことは、次の3つです。仕様の細部は、開発会社と一緒に決めれば構いません。
- 何のために作るのか:解決したい業務の課題と、システムを入れてやめたい作業
- 誰が決めるのか:社内の決裁者と、開発会社とやり取りする窓口の担当者
- 今どうしているのか:現在の業務の流れ、使っているシステムや帳票、Excel
3つ目の「今どうしているのか」を飛ばすと、新しいシステムで何が変わるのかを誰も説明できなくなります。現状を調べる意味は「システム導入の成否は、現状分析が9割」に、決める人が決まらないと何が起きるかは「社内政治が終わっている会社には手が出せない」に書いています。
要件定義は誰が担うべきか
要件定義の責任は発注側が持ち、進め方は要件定義から入れる外部のPMに任せるのが現実的です。社内にPMがいないなら、決める力は社内に、整理して進める力は外部に置きます。
| 進め方 | 良い点 | 気をつける点 |
|---|---|---|
| 社内の担当者だけで要件定義をする | 業務を一番よく知る人が決められる | 要件の書き方や抜け漏れの確認に慣れておらず、開発会社ごとに解釈が分かれやすい |
| 開発会社に丸ごと任せる | 社内の手間が少ない | 業務のルールが伝わらず、「作れるもの」が要件になってしまう |
| 外部のPMと一緒に進める | 社内が決め、外部が整理する分担で、要求と要件の溝を埋められる | 社内の窓口が判断に時間を割く必要がある |
要件定義は、仕様書を書く作業ではありません。利用者がどの画面で何をするかという、人の動きを設計する工程です。この考え方は「要件定義はユーザーの行動を設計する工程だと認識しよう」で説明しています。
開発会社はどう選べばよいか
価格より先に、要件定義から入れるか、誰がPMを担うかを確かめます。PMがいない会社にとって、開発会社に一番求めたいのは「前に進める力」だからです。
| 確かめる観点 | 聞くこと | 見落とすと起きること |
|---|---|---|
| 要件定義から入れるか | 要件定義の進め方と、そこで作る成果物 | 要件があいまいなまま見積もりが出て、後から増える |
| 誰がPMを担うか | 担当するPMの名前と経験、PMが同席するか | 営業と開発の間で話が伝わらない |
| 似た規模の実績 | 利用者数や体制が近い案件で、何を担当したか | 規模が上がったときの判断に慣れていない |
| 体制 | 1名だけの参画か、チーム単位か | 担当者が抜けると止まる |
| 情報の取り扱い | プライバシーマークなどの認証、AIや外部サービスの使い方 | 個人情報や社外秘の扱いで後から問題になる |
| 引き継ぎと保守 | リリース後の保守の形、文書の残し方 | 作った会社以外では直せないシステムになる |
見積もりの金額だけで比べると、要件があいまいな部分を「安く見積もった会社」が選ばれがちです。値段が不透明になる理由は「システム開発の値段が不透明になる背景」に書いています。
見積もりと契約はどう考えればよいか
要件が固まる前に、開発全体の正確な見積もりは出ません。要件定義までを先に契約し、固まった要件をもとに開発を見積もる、という2段階が安全です。
- 準委任:作業に対して費用を払う契約。何を作るかを決めていく段階に向いています
- 請負:完成した成果物に対して費用を払う契約。作るものと完成の基準をはっきり書ける範囲に向いています
RFPだけで正確な見積もりが出ない理由は、「RFPで正確な見積もりを出すのは極めて困難」で詳しく説明しています。
よくある失敗と避け方
よくある失敗は、次の3つです。どれも、外注の前に避けられます。
| 失敗 | 原因 | 避け方 |
|---|---|---|
| 開発の途中で仕様が何度も変わる | 要求のまま発注し、要件定義を省いた | 要件定義を開発と分けて契約し、決めた内容を文書で合意する |
| 会議で何も決まらない | 社内の決裁者と窓口が決まっていない | 外注の前に、誰が何を決めるかを社内で決めておく |
| 安く発注したのに、最終的に高くつく | 見積もりの安さで選び、あいまいな部分が後から追加費用になった | 要件定義の進め方とPMを比べてから、金額を比べる |
当社ではこう進めています
当社は、PMを含むチーム単位で、要件定義から参画することを基本にしています。2つの案件で、どう進めたかを紹介します。
モバイルオーダーの再構築(大手外資系ファーストフードチェーン)では、全国1,000店舗強で使われるシステムの作り直しに、PL/Tech Leadとして要件定義から入りました。要件定義では、注文の流れと、条件の組み合わせで増えていくクーポンの適用ルールを整理しました。プロジェクト全体は約20名で、当社からは最大4名が参加し、お客様側のチームと役割を分けて進めています。2026年11月初旬にフルリニューアルを終え、フェーズ2以降も担当しています。
管理会計システムの導入支援(フエニックス・コンタクト様)では、元請を介さない直契約で、お客様の立場に立つPMOとして参画しました。導入前に使っていたExcelの改修を通じて現状の管理会計の流れを押さえ、パッケージに業務を合わせる部分と、設定や追加開発で対応する部分を切り分けました。導入そのものは別の会社が担当し、当社は計画づくり、会議体の運営、課題管理を担っています。
まとめ
- 社内にPMがいないなら、決める力は社内に、整理して進める力は外部に置く
- 外注の前に「何のために作るか」「誰が決めるか」「今どうしているか」の3つを決める
- 開発会社は、金額より先に、要件定義から入れるか、誰がPMを担うかで選ぶ
自社の状況に当てはめて進め方を相談したい方は、お問い合わせからご連絡ください。PMが同席してお話しします。
よくある質問
RFPがなくても開発会社に相談できますか?
できます。RFPは、何を作るかがある程度固まってから書くものです。構想の段階で相談し、業務の課題と必要な機能を一緒に洗い出して、RFPの土台を作るところから始めるほうが、見積もりのずれは小さくなります。
要件定義だけを外部に頼めますか?
頼めます。要件定義は、成果物よりも作業に対して費用を払う準委任契約で切り出しやすい工程です。ただし、要件定義をした会社と開発する会社が分かれると、決めた意図の引き継ぎに手間がかかるので、その分の時間を見込んでおきます。
外部のPMと社内の担当者は、どう役割を分ければよいですか?
決めるのは社内、整理して進めるのは外部のPMです。業務のルールや優先順位、予算の判断は社内の担当者が持ち、論点の整理、会議の運営、開発チームへの橋渡しを外部のPMが担います。
契約は請負と準委任のどちらがよいですか?
何を作るかが固まっていない段階は準委任が向いています。要件が固まり、作るものと完成の基準をはっきり書ける範囲なら、請負も選べます。要件定義までを準委任、開発を請負と、工程ごとに分ける方法もあります。