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イチローが危機感を抱く「頭を使わない野球になっている」とは何を指すのか


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世界の野球界で最大級のレジェンドであるイチロー選手が現役を引退されました。平成を駆け抜けたスーパースター。28年間、我々野球ファンに最高の時間を届けてくれて、ありがとうございました。

そのイチロー選手の引退会見で、非常に気になる発言をされていました。そこだけ下線を引かせて引用させて頂きました。

「2001年に僕がアメリカに来てから、この2019年の現在の野球は全く別の違う野球になりました。まぁ、頭を使わなくてもできてしまう野球になりつつあるような……。選手も現場にいる人たちはみんな感じていることだと思うんですけど、これがどうやって変化していくのか。次の5年、10年。しばらくはこの流れは止まらないと思うんですけど。

本来は野球というのは……ダメだ、これ言うとなんか問題になりそうだな。問題になりそうだな。頭を使わなきゃできない競技なんですよ、本来は。でもそうじゃなくなってきているのがどうも気持ち悪くて。

ベースボール、野球の発祥はアメリカですから。その野球がそうなってきているということに危機感を持っている人って結構いると思うんですよね。だから、日本の野球がアメリカの野球に追従する必要なんてまったくなくて、やっぱり日本の野球は頭を使う面白い野球であってほしいなと思います。アメリカのこの流れは止まらないので、せめて日本の野球は決して変わってはいけないこと、大切にしなくてはいけないものを大切にしてほしいなと思います」
“イチロー節”全開、85分間の引退会見 一問一答ノーカット「孤独感は全くない」

頭を使わなくてもできてしまう野球・・・?

野球はメンタルと技術のスポーツである、と私は思っています。

頭を使わないので良いのなら、バッターはただ力一杯バットを振り回せば良いですけどそれで打てるわけがないですよね。フィジカルは馬力のようなもので、それ自体アスリートの競争力を決定する要素。そうはいっても、野球で成績を残すには塁に出なくては(打たなくては)始まらない。ピッチャーがリリースしてコンマ何秒で眼の前にやってくるわけですから、頭を使って準備なり予測なりをした上で、スイング技術を身に着け、その感覚と身体がマッチしないと良い成績を残すのは極めて難しい。

ピッチャーもそうで、極めて難解なメカニズムを頭で理解して、自分の体は一切見ることが出来ない中で正確な投球をしなければならない。身体の使い方を自分の言葉で表現できる必要がある。また、状況に応じて(正確には一球一球に応じて)最適なボールを投げていかねばならない。配球は野球で最も頭を使うポイントで、野球での勝負の駆け引きは配球に最も顕著に現れると感じています。

そんな頭を使いまくる野球において、頭を使わなくても出来るような競技になっているという背景があるとすれば、どこにあるのだろうか。

単純に考えると、極端な守備シフトに代表されるような、積み上げてきた野球のプレイを数値化し、データとしてある一定の分析・傾向が見えるようになったので、良くも悪くもそれに従うだけになっているのではないか、という話のように聞こえます。

データが野球を追い越してしまったのか?

左バッターのほうがプルヒッターである傾向が強いようで、左の強打者には、一二塁間に3人配置されることが少なくありません。2016年に引退したデビッド・オルティーズ選手に対するシフトなんかは特に強烈で、セカンドはライトと定位置の間ぐらい、かなり深いポジションにいました。実際ものすごい速い打球がそこに飛ぶから安打を防ぐことに成功していると言えるのでしょうけど、なんかねぇ。

仮に極端な守備シフトを敷かれたら、サード前にセーフティバントでもしたら良いのではと誰だって考えると思いますが、「守備シフトの上を行って、力でねじ伏せる」なのか「長打を打つには引っ張るべき。転がしても長打は出ない。長打を打てばいい、それが最も得点につながる確率が高い」みたいな話になっているのでしょうか。麻雀でいうとでかい手を上がれば良いんだ、2000点など狙うなみたいな話に聞こえます。麻雀はそういうものでしたっけ?

そういうことになってしまうと、頭を使わない野球になっているという文脈が垣間見えます。シフトで守る側も頭を使わないでよいのではと思います。3人が一二塁間にいれば守備範囲が狭くなりますから(人が多いから)、打球予測とか一歩目の速さみたいなアナログな指標がなくなってしまうのかもしれない。その場所に突っ立ってただ打球がくるのを待つだけ、という側面もあるのかもしれない。なので、ダイビングキャッチとかセカンドがバックハンドで取ってグラブトスからの4−6−3を成立させる等のファンタジックなプレーが少なくなってしまうのだとしたら、寂しいなぁと思います。

データは偏りがあることに意味があるので、その偏りに対して素人目にもわかる正論に近い対策を取るだけに変わっているのであれば、冒頭の気持ち悪さが垣間見えるなと感じました。

セイバーメトリクスに代表される野球の数理学のおかげで様々な指標が出てくるようになって、野球選手の評価の物差しが多様化されたのは、野球の進化だと思います。でも、スペックだけで野球を語る人も増えているように思います。ボールの回転数を例に取ると、例えばA投手のフォーシームは2500回転で、奪三振の多い楽天の則本昂大投手の回転数が2800だとしましょうか。それを比べても何にもならないですよね。A投手が則本選手のようなストレートを投げたくても、骨格や筋肉のつき方及びその性質によって、最適なメカニズムが違うわけで。A投手がフォーム改造やトレーニング等で2650回転までアップしたとしましょう。その結果、スライダー系統のボールの曲がりが速くなって逆に打たれだしたみたいな結果を生み出した時に、どうなるんだろうな、って。

カタログスペックでみたら、古い野球ファンの方であればご存知だと思いますが星野伸之投手のような投手は、どう評価されるのでしょう。

ピッチングのメカニクスが更に高精度なレベルで解き明かされ、ヒェ~こんな変化球打てるわけ無いやん〜的なボールを投げられるようになる時代になって、マリアーノ・リベラ投手のカッターが科学的に解き明かされ多くの投手で再現可能になるような未来が来るのかもしれない。ブレーキングボール革命が来るとしたらそれはそれで面白いですけど、ハイスペックだけが野球ではないなという想いが私にはあります。

スペックだけで決まらない野球の面白さ

スペックだけで決まらないのが野球の面白いところで、端的には配球に現れると思っています。9回表で同点、二死満塁でバッターはイチロー。ピッチャーは大谷翔平。3−2のフルカウントで次に何を投げたら正解なのか。データ上は最もヒットゾーンに飛ぶ確率が低いコースに、最も大谷翔平の被打率が低いボールを投げることが正解なんでしょうけど、ヒットを打たれない理由にはなりませんよね。フォークがストライクからボールになるアウトローではなく膝上5cmぐらいの所に来たら、ショートの頭の上を越されるかもしれません。

逆も然りで、データ上は最もヒットにする確率の高いゾーンに最も被打率の高いボールが来たとしても、見逃したり打ち損じたりするわけです。やけくそのど真ん中のストレートでポップフライになったりすると、気持ちで勝ったみたいな表現になると思います。科学的ではないですけど、良いじゃないですかそれはそれでって思う。

目に見えない心の動きを推し量りながら見るのも、野球の魅力ですからね。


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最後までお読みいただきありがとうございました。
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執筆者について

著者

(株) クオリティスタート 代表取締役

湯本堅隆(YUMOTO Michitaka)

略歴

1979年生まれ。ISPの電話サポートのアルバイトをきっかけにIT技術に興味を持ち、2003年にアイ・ティ・フロンティア(現タタ・コンサルタンシー・サービシズ)に新卒で入社。

SIer在籍期間からブログ「GoTheDistance」でSIerを巡るIT業界のあり方・エンジニアのキャリアについて記事を書き、累計はてなブックマーク数40,000を超えるブログになりました。

「ITを使いこなしたいなら、ユーザー企業は内製すべき」と主張しているうちに、2009年から雑貨卸の有限会社 エフ・ケーコーポレーションで内製化を1人で担当するはめに。メーカー送料ロットのない雑貨卸というビジネスモデルをITシステムを実装することで確立し、経済産業省が主催するIT経営実践認定企業に選ばれました。

「システムを作る人材や会社」はあっても「何が正しいITシステムなのか」を事業会社の立場で考え、デザインできる人材が枯渇している。

この課題を解決したいという思いから、会社を創業しました。

重度の野球好きで、東京ヤクルトスワローズのファンです。



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